はじめに:益獣と害獣、両方の面を持つコウモリ
「コウモリ」と聞くと皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか?
夜の闇に翼をはためかせて飛び交う姿は、どちらかというと少し不気味な印象があるかもしれませんね。
また、西洋では魔女の使い魔という考え方も知られていることから、ファンタジーの象徴的な動物の一種としても捉えられているのではないでしょうか。
現実のコウモリは人間にとっての害虫を大量に捕食することから益獣とされる場合もありますが、現在ではノミ・ダニ・病原菌のキャリアであり騒音や糞害をもたらすため害獣として位置付けられるのが一般的です。
そんなコウモリはやはり不吉なイメージがある反面、実は幸運のシンボルともいわれています。
世界中に分布するコウモリは歴史的にそれだけ多くの人々の目に触れてきた経緯があり、その分さまざまな俗信が生まれてきました。
本記事ではコウモリを駆除が必要な害獣であるとしながら、この動物にまつわる世界の俗信について見ていくことにしましょう。
中国でコウモリが縁起のいい動物とされる理由は?
まずはコウモリを縁起のいい動物とする考え方について触れておきましょう。
これは主に中国での言い伝えで、名称の漢字を別の意味に読み替えることが由来です。
コウモリは漢字で「蝙蝠」と書きますが、中国語では同じ発音で「変福」とも読むことができるといいます。このことからコウモリを「福に変える」という、縁起のいい意味を持つ動物と捉えているのです。
同じく中国ではネズミが100年生きるとコウモリになるという言い伝えがあり、神秘的な生き物とも考えられていたようです。
そんなコウモリは縁起物のデザインとしても好んで用いられ、不老長寿の象徴である桃と組み合わせた図柄が焼き物などにあしらわれています。
赤いコウモリの柄は特に縁起がよいとされ、これを「紅」と同じ中国語発音の「洪」になぞらえて「多くの福」という意味の「洪福」といいます。
また、5匹のコウモリを配したデザインは最上級の幸福を意味し、それぞれに金運・健康・長寿・子孫繁栄・成功を象徴することから景徳鎮の焼き物などにも用いられました。
英米でのコウモリに関する伝承にはどんなものがある?
一方、英米におけるコウモリについての俗信にはどちらかというと不吉なものや、凶兆と捉えるものが多いようです。
例えばコウモリが近くを飛ぶことは誰かが自分を裏切ろうとしていたり、魔法をかけようとしていたりする証拠だと考えられました。
また、コウモリが家の周囲を3回飛ぶ、あるいは家の中に侵入してくると住人が死ぬ予兆という恐ろしい俗信もあります。同様に病人のいる部屋の窓にコウモリがぶつかると、その人は亡くなるともいわれています。
一方、生死に関わる凶兆だけではなく、天気を占うという日常的なことにもコウモリが引き合いに出されました。
コウモリが日没後にほどなく巣穴から飛び出し、たわむれながら飛ぶ場合には晴れ。コウモリが建物などにぶつかると雨になるといわれています。これらは動物の行動で直近の天気を予測する経験則にもつながり、餌となる昆虫の動きとも関連して一定の信憑性があるとも考えられるでしょう。
他にもコウモリには一種のまじないに関わる力が宿っているという考え方があります。
例としては、コウモリの骨を身に着けていると幸運が訪れる、コウモリの血で洗顔すると暗闇でも目が見えるようになる、コウモリの右目をベストのポケットに入れることでその人の姿が見えなくなる、等々の言い伝えです。
またスコットランドでは上昇したコウモリが地に向けて下降した場合、それは魔女が人間に影響を及ぼそうとしている時と考えられたといいます。
コウモリは魔女と深く関わっている生き物だという観念がしばしば見受けられ、魔女除けのまじないとしてコウモリの死骸を物置小屋や納屋の扉に釘で打ち付けておくというものもあります。
さらには女性の髪にコウモリが絡まった場合、逃すためにはほどくのではなく髪を切らねばならないという言い伝えもあり、一種の呪術的な禁忌意識と結びついているといえるでしょう。
日本でのコウモリについての俗信は?
中国や英米でのコウモリに関する言い伝え・俗信についてご紹介しましたが、日本各地にもさまざまな伝承があります。
なお、以下の文では「コウモリ」と表記するものは説明がない限り、日本の住宅地や都市部で一般的に見られる「アブラコウモリ(イエコモウリ)」のことを指すものとします。
例えば秋田県では「夕暮れにコウモリが飛ぶと翌日は雨」「止血にはコウモリの巣をつけると効く」などと伝わっています。英米とは逆の結果ですが、天気の予測に関することにコウモリの行動を基準とする共通項は興味深いといえるでしょう。また、「コウモリの巣」が具体的に何を指すのかは不明ですが、傷口に付けるのは明らかに危険なため現代では迷信の部類です。
また長野県ではコウモリの黒焼きが血の薬になるとし、高知県ではコウモリの生き血が毛生え薬になるという伝承があり、血に関わる薬効が広く信じられていた痕跡も特徴的です。
さらに新潟県ではコウモリの糞が眼病に効くという俗信がありますが、これにはカビ菌の一種が含まれることからホコリを吸い込むことも避けるべきとされています。
コウモリに関しては「眼」にまつわる何らかの効果が英米でも日本でも伝承されていますが、やはり暗闇を自由に飛び回る習性から連想したものと考えられるのではないでしょうか。
裏切者を「コウモリ」と呼ぶのはどういう意味?
状況によって立場や言説を翻したり、常に力を持った側につこうとしたりする人のことを「コウモリ」や「コウモリ野郎」などと罵倒する言葉がありますが、これはどういった意味なのでしょうか。
端的にいうと哺乳類でありながら自力で飛行できるコウモリは、鳥とも獣ともいえる姿であることに由来するものです。
山形県の民話に「こうもりの二心(ふたごころ)」というものがあり、かつて鳥たちと獣たちが争った時に両方の特性を持つコウモリはその都度勢力の強い方に所属しようとし、結果としていずれのグループからも仲間外れにされてしまったという粗筋です。
この争いは昼の間は鳥が空を飛ぶ時間、夜は獣が歩き回る時間とすることで講和しましたが、コウモリだけはその間の夕方しか行動できなくなったとするお話でほぼ同様のストーリーが沖縄市でも伝承されています。
このような民話の例もあり、時勢によって日和見したり裏切ったりする者のことをコウモリと呼ぶようになったと考えられます。
縁起はよくてもコウモリは害獣! その理由と駆除することの必要性とは?
コウモリが縁起のよい動物として捉えられるケースや、世界各国での伝承について概観してきました。
吉祥を象徴する動物とする地域ではもちろんコウモリを大切にする心情があるものと思われますが、現実には害獣としての位置付けが重要です。
それというのも、コウモリにはノミやダニなどが寄生しており、しかもさまざまな病原菌のキャリアであることが判明しているからです。
そのため血や糞を薬にするというのはもってのほかで、科学的には非常に危険な行為であるといえるでしょう。
また、コウモリが群れで行動する際に立てる無数の鳴き声や羽音は小さなものではなく、これが連日のように続くと不眠や神経症を発症するケースもあります。
さらに一か所に集中して排泄する習性があることから、大量の糞が住宅やビルなどの構造物を腐食させて建物に大きなダメージを与える場合もあるのです。
日本ではコウモリに由来する重篤な感染症の事例はないとされていますが、上記のことから万が一コウモリが家屋などに棲みついているのを発見したら、できる限り迅速に駆除することが望ましいといえるでしょう。
ただしコウモリは鳥獣保護管理法で守られた野生動物であり、無許可で殺傷したり捕獲したりすると処罰の対象となるおそれがあります。
そのため駆除のためには巣から完全に追い出したうえで再侵入を阻止する方策が必要ですが、冬眠や子育てといった一年を通じての行動パターンから駆除に適したシーズンは限られています。
このような特殊な事情がコウモリの駆除を困難にしており、もし個人で試みる場合には十分な知識と装備を整えて臨むことが不可欠です。
まとめ:個人では難しいコウモリの駆除は専門業者に依頼するのがおすすめ!
国によってはコウモリを縁起のいい動物と考えていることや、英米や日本各地でのコウモリに関する俗信について解説しました。
ところが実際には寄生虫や病原菌を媒介し、騒音や糞害をもたらすことから駆除が必要な害獣としての側面が強い動物です。
一方では駆除に適した活動時期の習性や野生動物保護の法律で守られていることなどから、個人による駆除には高いハードルがあるのも事実です。
そこでおすすめなのが、コウモリ駆除の専門業者に依頼することです。
プロフェッショナルとしての高度な知識と技術を用いて駆除後の処置まで安全に実行し、専門家の見地から防除のための適切なアドバイスも得られます。
もしコウモリの害で悩むことがあれば、このような専門業者への相談も視野に入れてみてはいかがでしょうか。